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マゾヒズム文学の世界

谷崎潤一郎・沼正三を中心にマゾヒズム文学の世界を紹介します。

月蝕歌劇団公演「沼正三/家畜人ヤプー」の感想

劇団「月蝕歌劇団」による演劇「沼正三/家畜人ヤプー」が、2010年9月1日から6日にかけて、「ザムザ阿佐谷」にて上演されました。

私は9月5日の夜の部に、観劇しました。
素晴らしい舞台でした。
陶酔してしまいました。
すごく小さな劇場だったので、最前列で見た私は役者さんとの距離が近く、すごく「生」の臨場感を感じました。
少し遅くなりましたが、私なりの感想を書いてみたいと思います。

交錯する現実と虚構
本作は、マゾヒズム作家・沼正三の半生と、その小説『家畜人ヤプー』のストーリーが平行して進行します。
この意欲的な試み自体に、まず私は衝撃を受けましたね。
現実と虚構が入れ替わるたびに、一方の話が中断するので、その都度わくわく感がつのっていきます。
平行線だった二つ世界は次第に交錯していきます。
『家畜人ヤプー』のなかで、ジャンセン家に敗れる運命にあるイース名門貴族ジャーゲン家が、その運命を転覆すべく、作者である沼正三の前に現れ、誘惑するという驚くべきアクロバティックなパラドクスを用いて。
なんという想像力でしょうか。すごい。

沼正三は誰?
本作で、沼正三は、本名:「沼倉正三」として、少年時代から『家畜人ヤプー』を執筆した中年時代までの半生が描かれています。
沼倉正三の少年時代・青年時代のエピソードには、次のようなものがありました。

・九州の比較的裕福な家庭に育ったが、父が散財した。
・「横光莉絵」という少女がうがいした水を口にした。
・美しい叔母「久美子おばさん」を慕っていた。
・学友と同性愛の関係にあった。
・兄「正博」を慕っていたが、正博は出征した。
・沼倉自身は従軍せず、戦中一時満州に赴いた。

これらは、『禁じられた女性崇拝』『禁じられた青春』などの、天野哲夫の自伝的作品に、天野が自らの体験として書いたエピソードを基にしていると思われます。
どうも本作が描いている『家畜人ヤプー』の作者:沼正三は、天野哲夫のようです。

一方、『家畜人ヤプー』の創作に当たって重要な役割を果たしたとされる人物がもう一人登場します。
Cast表では「Xエックス」とされている法律家です。
Xは自らの体験として、「英軍の捕虜となって司令官夫人の身の回りの世話をさせられ、人間扱いされなかった」と語ります。
これは、沼正三の長大なエッセイ集『ある夢想家の手帖から』第一〇六章「奴隷の喜び」に、沼が自らの体験として書いているエピソードです。
本作は、このXを、『ある夢想家の手帖から』の著者である「もう一人の沼正三」として描いています。
法律家、ということを考えると、倉田卓次元裁判官を想定しているのかもしれません。
そして、このXは、『家畜人ヤプー』の創作に当たって、重要ではあるが補助的な役割を果たしたに過ぎず、あくまで小説の世界を構想したのは天野哲夫と同一人物である「沼正三」である、とされています。

…この理解は、間違っています。
私の「沼正三の正体」に対する理解は次のようなものです。
①『家畜人ヤプー』の世界を構想し、その「正編」(第二八章まで)を執筆したのは、『ある夢想家の手帖から』の著者と同一人物であり、この人が正真正銘の沼正三である。
②この沼正三は、『禁じられた女性崇拝』『禁じられた青春』などの著者である天野哲夫とは別人である。
③沼正三が倉田卓次である可能性は大いにあるが、定かではない。
④天野哲夫が『家畜人ヤプー』の執筆に大きな役割を果たしたのは確かで、恐らく「続編」は天野が主に執筆した。
この理解は、「女性上位時代」を読む限り、馬仙人と全く同じ理解です。
このあたりについては、また改めて論じたいと思いますが、本作はここの理解が間違っていたことは、非常に残念でした。

『少年』と『アデンまで』
本作で私が一番昂奮したのは、谷崎潤一郎の『少年』と、遠藤周作の『アデンまで』が紹介されていたシーンです。
この二作を取り上げた、ということだけでも、本作が沼正三のマゾヒズムの本質を捉えていると評していいと思います。
『少年』に描かれるスクビズムのオンパレード。
セーラー服姿の光子に三人の少年が傅き、椅子にされる姿が目に焼きついています…。
特に汚物愛好については、全編を通じて妥協なく描いていたのがよかったですね。

そして『アデンまで』。
沼の本質である「白人崇拝」をも、しっかりと盛り込んでいました。

また、ついさっき麟一郎とキスをしていたクララが、畜籍登録や尿洗礼を終え、頼もしそうにウィリアムの腕を取り、しどけなく寄り添って、リンの処遇を話題にしているシーン…。
猛烈に昂奮しました。
ちょっとしたシーンなんですが、『家畜人ヤプー』が「寝取られ物語」であることまでも、しっかりと演出している、そんな風に私には感じました。

『ヤプー』や「沼正三」を描くに当たって、、もっとこの部分が描き足りていない!という部分はたくさんありますよ。
そんなことはいくらでも言える。
でも、いちいちそんなことを言っていたら、二次創作なんてなんにもできないんですよね。
少なくとも私が『ヤプー』の、「沼正三」の本質と考える部分は、しっかり描かれていたと思います。

印象に残ったキャスト
特に印象に残ったキャストをご紹介しておきます。

久美子おばさん/クララ役:しのはら実加
いやー美しかった!
はかなげなんだけれど、しなやかで凛とした気品がありました。
1メートルくらいの至近距離でガン見できて、幸せでした。

ドリス/横光莉絵/光子/白の姉:白永歩美
ドリスと光子に共通する「無邪気な残酷さ」を備えた美少女役が見事にはまっていました。
セーラー服にやられた…。

X役:工藤悦仙
すごい存在感。いい感じに渋くて、お芝居を締めていました。

黒川/ミノダ役:ひろ新子
この人も存在感がありました。ジェットコースターのようにドタバタしたお芝居の中で、この人が出てくるとふっと空気が変わっていましたね。

本当に見に行ってよかった!と思えた素晴らしいお芝居でした。
意欲作に挑み、見事な作品を作り上げた演出家:高取英と、月蝕歌劇団に深く敬意を表したいと思います。

タグ : マゾヒズム 谷崎潤一郎 沼正三 家畜人ヤプー ある夢想家の手帖から 月蝕歌劇団 しのはら実加 白永歩美

『ある夢想家の手帖から』全章ミニレビュー 第3巻「おまる幻想」

沼正三の長大なエッセイ集『ある夢想家の手帖から』につき、全章をミニレビューをつけて紹介していきます。
入手できた挿画、関連する画像を合わせて掲載します。

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第六八章
マゾッホの奴隷契約
『毛皮を着たヴェヌス』に登場する奴隷契約と、マゾッホ自身がファニイ・ピストル夫人、オーロラ・リューメインと結んだ奴隷契約を紹介。

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レオポルト・フォン・ザッハー=マゾッホ

第六九章
恋人の庭の熊(『リリの動物園』)
美少女に飼われる熊の切ない慕情に、自らの恋を重ねたゲーテの詩を紹介。

第七〇章
お前は熊だよ
畜化願望の一類型として熊となる願望を紹介。毛皮を着て熊になりきれるのが利点のようです。

第七一章
奥様の反吐
以下五章は汚物愛好コプログラニアについて。
とっかかりは沼の祖父の話。
ある伯爵家のお抱え車夫だった祖父は、奥様が訪問先で吐き出した反吐を素早く片付けるために啜った、というもの。

第七二章
浄穢不二
「浄穢不二」つまり綺麗・汚いの差など表面上のもので、本質的には差はないという禅門の思想を、汚物愛好と結びつけます。

第七三章
髑髏便器
自らの頭蓋骨を崇拝する女性に遺贈し、死後に便器となるという妄想。
付記では、清宮貴子内親王に対する並々ならぬ憧憬を吐露しています。

第七四章
未来の便所
未来の排泄風俗を予想し、人間便器や髑髏便器実現の可能性を考察。

第七五章
三つの勤務
女主人からマゾヒストへの返信シリーズ。
汚物愛好者コプログラニストに対して、三段階の調教を行うというもの。
第一段階:奴隷勤務
第二段階:便器勤務
第三段階:舐め勤務(クンニリングス)

第七六章
日本のクイーン
吉田茂の三女:麻生和子を貴婦人崇拝者パジストにとっての理想の貴婦人として、並々ならぬ憧憬を吐露しています。
(麻生太郎元首相のお母さんですね。)

第七七章
ドミナの三要件―パジストよりみたる麻生夫人―
貴婦人崇拝者パジストにとっての理想のドミナの要件は、高貴、財産、驕慢であるとし、麻生和子がこの要件を満たしていることが伺えるエピソードを紹介します。

附記では「今の世で最もドミナ的特性に富む女性」ジャクリーン・ケネディ・オナシスについて。

当時のマゾヒズム作家陣は沼正三以外にも白人崇拝・貴婦人崇拝・乗馬女性崇拝者が多く、それが三拍子そろったジャクリーンの狂崇的な崇拝者が続出したようです。
白野勝利『ジャクリーンの厩』、天野哲夫『女帝ジャクリーンの降臨』など、たくさんのジャクリーンに対するオマージュ作品が紹介されています。
一群の外国人の心をここまで狂わせるジャクリーンの魅力に脱帽叩頭させられますが、この世代の抱える米国に対するトラウマの深刻さも感じずにはいられません。

沼は妄想します。ジャクリーンは、日本の作家たちが馬になっって自分に乗られたり、便器になって自分の排泄したものを口にすることを渇望し、果ては万世一系の君主を廃して自分を国家の主権者に迎えることを妄想して、競って小説にしていることを知ったらどう思うか。「あたりまえよね」と愛娘のキャロラインと顔を見合わせて笑うのではないかと…。

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ジョン・F・ケネディ大統領とジャクリーン夫人              キャロライン・ケネディ

第七八章
男ではない、奴隷ですわ
フランス人女性の一八世紀ロシアの見聞録より。
慎み深い公爵令嬢が、召使に放尿の手伝いをさせる。
貴婦人・令嬢の、貴族同士に対する態度と、下層階級の者に対する態度の落差を重視するのも、沼の貴婦人崇拝パジズムの特徴です。

第七九章
最初に犂を曳いた者
アドルフ・ヒトラーの『我が闘争』よりナチス・ドイツの思想について。
先史時代のアリアン人種について、『リグ・ヴェーダ』などの古典研究の結果ヒトラーが得た結論は、以下のようなもの。
・アリアン人種は馬などの家畜よりも先に劣等有色人種を奴隷として使役しており、アリアン人種が発明した犂による耕作など、後に家畜が行うことになった労働も先に奴隷が行っていた。
・劣等有色人種は生存競争の原理に従えば絶滅すべきところを、アリアン人種に征服され奴隷になることによってのみ、生存することが可能となった。よって劣等有色人種はアリアン人種に征服され使役されたことを感謝すべきである。
・征服された劣等有色人種の奴隷労働が苦しいものであったとしても、それによってアリアン人種の文化建設に役立つことができたのだから、やはりアリアン人種に征服され使役されたことを感謝すべきである。

この思想は必然的に現在および将来のアリアン人種世界制覇を正当化します。
そして、アリアン人種は劣等有色人種を征服し奴隷化・家畜化することで「人間以上のもの」へと進化していき、劣等有色人種は「人間以下の境涯」へと堕ちていく…ということになります。
これについても本来無意義に死に絶えていく運命のところ、神に近づいていくアリアン人種に奉仕できることを、劣等有色人種は感謝すべき…ということになるのでしょう。

第八〇章
苦しくはあるが有用な
白人種が、有色人種の苦痛を理解しながらもし、白人種にとって有用な場合にはそれをほとんど問題にしないことを例証します。

第八一章
プロジェクト「奴隷化」
個人的に全章中一番好きな章です。

沼正三の脳裡に形成された「白人が支配する世界」の妄想は、やがて『家畜人ヤプー』のイース帝国に結晶するのですが、そこに至るには途中大きく二つの流れがありました。
一つは第一七章「混血への妄想」で紹介された、敗戦後の日本が米国の属領となる妄想。
もう一つが本章に紹介された、日本がナチス・ドイツに占領支配され、その人種論に基づいて日本人が計画的に奴隷化されていくという妄想です。

その万事に及ぶ妄想の中から、教育制度が詳述されています。
日本人は幼児期から少年期に受ける高度に効果的な教育によって、白人に奉仕することを至上の喜びとする奴隷に育っていきます。
教育は主に下記三段階です。
第一段階(乳児期):白人家庭に預けられ、白人の下半身に対する憧憬を植えつける。
第二段階(児童期):日本人の学級全体で一人の白人生徒に奉仕する。
第三段階(少年期):当番制で白人家庭に家事奉仕する。
それぞれすばらしくマゾヒスティックな設定が非常に詳細に書かれており、これはいずれ別記事で紹介したいと思います。

さて、イース帝国にいたる二つの日本占領妄想のうち、第一七章「混血への妄想」の方は、「日本人女性を白人男性に寝取られる」という奇怪グロテスクなトリオリズムと、それによって生まれる混血ハーフを中間支配者とすることで純粋白人との隔絶をより深刻にする、という点が特徴です。
これに対して本章に描かれる占領政策においては、混血は禁止されています。
『家畜人ヤプー』にはこの混血禁止が受け継がれています。「日本人女性が孕まされる」という願望は子宮畜ヤプムのくだりにわずかに反映され、中間支配者には黒人が起用されました。
一方、家事奉仕を重視する奴隷願望セルヴィリズム、性欲を昇華した白人の肉体への一方的憧憬を重視する侍童願望パジズム、白人の足元に這い、尻の下に跪くことを重視するスクビズムといった本章の妄想の特徴は、そのまま『家畜人ヤプー』に受け継がれています。

そういう意味で、『家畜人ヤプー』に直結したのは、本章に紹介された妄想といっていいでしょう。

第八二章
ネアンデルタール人の血
クロマニンヨン人がネアンデルタール人を征服して家畜として使役した。
馴致されたネアンデルタール人はクロマニンヨン人を崇拝し、服従することに満足するようになった。
その上で異種間通婚が起こり、その混血児の子孫は、「家畜的服従への衝動」を持つマゾヒストとなった…という説。

第七九章・第八二章附録
(二俣女史に答えて)
二俣志津子という作家が第七九章「最初に犂を曳いた者」の記述に異論を唱えたことに対する反論を掲載。
ここに、この『ある夢想家の手帖から』というエッセイ集の本質が記されています。
つまり、これはマゾヒストが読んで性的に興奮することを目的とした文章であり、それがたまたま小説ではなくエッセイ集という形態をとっている、ということです。
例えば白人崇拝に関していえば、
「これこれこいうわけで、白人種は優等で有色人種は劣等である…というふうに考えると、興奮してしまいます。」
これの「…というふうに」以下をあえて省略しているんですね。
女性崇拝で言えば、
「これこれこういうわけで、女性のほうが男性より優れています。」
となるわけです。
この際、「歴史的に真実かどうか、科学的に正当かどうか、そんなことは本来眼中にない」んですね。
もちろんまったく事実でない妄想は「これは妄想です」と断っていますが、「白人種は優等で有色人種は劣等である」「女性のほうが男性より優れている」といった結論に寄与する事実は積極的に採用するし、寄与しない、不利となる事実は無視します。読者を納得させることを目的とするエッセイであれば、これではダメなんですが、『手帖』は読者を性的に興奮させることを目的としているので、これでいいんですね。
これは、歴史上・同時代の人物・出来事に関する記述についても同様です。
理想のドミナとして紹介する場合はそれに寄与するエピソードだけを記述し、男性をマゾヒストとして紹介する場合はそれを裏付ける言動のみを取り上げます。
あるいは文学作品の解釈についても同様に、マゾ的に興奮できる箇所のみを取り上げ、都合よく解釈してしまいます。

第八三章
空想科学小説についての対話
なぜか本章は沼と弟子のような人物との対話編で語られています。
マゾヒスティックな空想科学小説を紹介。

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『巨人族の娘』の表紙

第八四章
地獄の谷間(『ペット・ファーム』)
ロージャー・ディの『ペット・ファーム』を紹介。
昆虫型の宇宙人「ヒメノプス」に征服されて馴致された地球人が、ヒメノプスのペットである蛾の餌となり、ヒメノプスが去った後も嬉々として蛾の餌となり続けている…というもの。

第八五章
若いマゾヒストの告白
戦前雑誌に掲載され、繰り返し盗用されたある匿名の報告を紹介。
複数の女性(女群)に陵辱される体験が特徴。

第八六章
ある洟汁賛歌をめぐって
クラフト・エビングの著作に報告された事例。
東洋人の留学生が大家の英国夫人に恋し、夫人が洟をかんだハンカチを盗み、洟汁を舐めた、というもの。

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エリザベス・テイラー

第八七章
加虐への開眼(『月光』)
有馬頼義『月光』を紹介。

令嬢阿也子は保尊中尉に強姦され、結局彼の妻となり、北満に同行する。
保尊中尉は当番兵の大西を召使として使役しており、やがて阿也子も大西を酷使するようになる。
保尊中尉は大西に阿也子の肌を風呂場で洗わせたり、阿也子との夜の営みを見せ付けたりもする。
終戦後帰国した三人は、大西の家に住むことになるが、大西は妻の松枝を差し置いて主人の妻阿也子にかしずく。
保尊中尉は松枝を寝取って孕ませる…などなど。
最後には、阿也子が大西を殴る。
沼はこれを阿也子の「加虐への開眼」と解釈します。



第八八章
荷車犬志願
荷物を挽く挽畜について。直接騎手に乗られるという「ご褒美」がない分、むしろマゾヒスティックではないか、としています。

第八九章
人か犬か(『狂った人々』)
香山滋『狂った人々』を紹介。
浮浪児が美少女のいたずらによって自分のことを犬と信じ込んでしまう。少女は浮浪児を本当の犬として扱い、大八車を挽かせる…というもの。

第九〇章
閨房の備品になった男(『丹夫人の化粧台』)
横溝正史『丹夫人の化粧台』を紹介。
老博士の若き夫人が寝室の化粧台の中に美少年を愛人として隠している、というもの。

第九一章
人間から畜生へ
前章で紹介した『丹夫人の化粧台』から妄想を膨らませた沼の二次創作。
鍵をつけて愛人を閉じ込めた夫人は、やがて愛人を畜生扱いにし、飲用水を供給するために作った洗面台で足を洗い、猫の残飯を与える…などなど。

第九二章
死ぬまで檻の中においで(『ポンパドゥールの奇行』)
マゾッホ『ポンパドゥールの奇行』を紹介。
一八世紀フランス。崇拝する令嬢アドリアンヌの歓心を買うため、国王の寵妃ポンパドゥール夫言い渡される。
詩人はアドリアンヌの結婚式の日、狭い檻に入れられ、パリの公衆でさらしものにされる。
詩人はその後も狭い檻に収められているが、ポンパドゥールもアドリアンヌも詩人の存在などとうに忘却してしまっている…などなど。

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フランソワ・ブーシェ『ポンパドゥール公爵夫人』

第九三章
人間燭台(『燈台鬼』)
南条範夫『燈台鬼』を紹介。
遣唐使の小野石根が、唐で遭難して奴隷として売られ、余興として宴会の座を照らす人間燭台となるという話。

第九四章
痴愚扮技(『幻炎』)
黒田史郎(天野哲夫)『幻炎』を紹介。
痴愚者を装って女性に嘲弄され、奴隷や家畜の気分を味わう、というもの。

第九五章
お嬢様のお靴を……
ドイツ人の症例。
丁稚奉公先で令嬢の長靴ブーツを磨かされる青年の話。

タグ : マゾヒズム 谷崎潤一郎 沼正三 家畜人ヤプー ある夢想家の手帖から 寝取られ 三者関係 白人崇拝

新和洋ドミナ曼荼羅(3)―ヘブライ神話の美女

マゾヒストにとっての理想のドミナを、具体的に列挙しています。

第二回目は、ヘブライ神話に登場する美女を取り上げます。
『旧約聖書』『新約聖書』によって世界史に最も強い影響を与えた古代神話です。


リリス
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ジョン・コリア『リリス』
人類最初の女性
『旧約聖書』の「創世記」では、最初の人間は男性のアダム、最初の女性はその妻のイヴで、イヴはアダムのあばら骨から造られたとされています。
しかし、イヴが造られる以前に、アダムにはリリスという妻がいたという伝承もあります。
リリスはイヴとは違い、アダムと同じように土で造られました。それだけにイヴのようにアダムによく従う従順な妻ではなく、アダムの支配を受け入れず、性交の際には騎乗位を求めます。

悪魔たちと…
その上リリスはアダムを捨ててエデンの園を去り、紅海沿岸に住みつきました。そこで数多の悪魔と淫蕩に関係を持ち、リリンと呼ばれる悪魔たちを産みます。
アダムはイヴと結ばれた後も美しいリリスを忘れがたく、神にリリスをエデンの園に戻してほしいと懇願します。神は天使を遣わしてリリスを説得しますが、リリスはこれを拒否します。おそらく、悪魔との魅惑的な性交はリリスにとって、アダムとの退屈な性交とは比べ物にならない快楽だったのでしょう。
リリスの産んだリリンはアダムとイヴの子孫たちを誘惑し、破滅させます。リリス自身も悪魔としての能力を身につけ、男児だったら生後八日間、女児だったら生後二十日間、リリスはその運命を好きにすることができ、生かすも殺すも思いのままにできるようになったといいます。
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ギュスターヴ・アドルフ・モッサ『彼女』


バテシバ
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ギュスターヴ・アドルフ・モッサ『ダビデとバテシバ』
水浴びを見て
最盛期の古代イスラエルを指導した大預言者ダビデ。そのダビデが犯した大きな罪悪が、バテシバとの不倫です。
ある日、ダビデは宮殿の屋上を散策していたところ、眼下にうっとりとするほど美しい女がまばゆい裸体をあらわにして水浴びをしているのが目に入りました。欲情に駆られたダビデは急ぎ美女の素性を調べさせたところ、美女は勇猛な軍人ウリヤの妻バテシバでした。それを知ってもダビデは恋心を抑えることができず、バテシバを宮廷に呼び、想いを遂げてしまいます。

夫を抹殺
さぞかし激しい情事だったのでしょう。バテシバはすぐさま妊娠してしまいます。あせったダビデは様々な計略で姦通の証拠を隠蔽しようとしますが失敗し、追い込まれたダビデは卑劣にも王の権力を悪用し、ウリヤの上官に彼を戦地に一人置き去りにして退却するよう命じました。こうしてウリヤを死に追いやったダビデは、寡婦となったバテシバと盛大な結婚式を挙げ、后としてしまいす。


デリラ
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ピーター・ポール・ルーベンス『サムソンとデリラ』
銀貨千枚で愛人を…
デリラは、イスラエルの預言者サムソンを死に至らしめた美女。
サムソンは超人的な怪力の持ち主で、パレスチナ人と抗争中のイスラエルを指導していました。
サムソンがデリラの美貌に夢中になったことを知ったパレスチナ人の指導者は、デリラを銀貨千枚で買収します。デリラはある晩サムソンを寝かしつけると、サムソンの怪力の秘密を巧みに聞き出します。サムソンの怪力の秘密は髪の毛。パレスチナ人はこっそり忍び出してサムソンの髪の毛を切り、サムソンの両目を剣で抉り出してしまいます。サムソンは暗い監獄で石臼を挽くという辱めを受けることになります。
このサムソンとデリラの神話は、ザッヘル・マゾッホの『毛皮を着たヴィーナス』にも引用されています。


ユーディット
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カラバッジョ『ユーディットとホルフェルネス』
体を武器に
敵将の首を刈り取った神話で知られる女傑。
アッシリアの将軍ホルフェルネスの軍によって占領されたイスラエルの山岳都市ベトリア。ベトリアの貴族出身の未亡人ユーディットは、祖国を救うために身を投げ出す覚悟で立ち上がります。ユーディットは美しく着飾ってアッシリア軍陣営に赴き、ホルフェルネスに会わせてくれと頼みます。
ホルフェネウスはベトリア最高の美女に心を奪われ、ユーディットを幕舎の寝室に招き、思いのたけ肉欲を満たします。激しい性交に満足したホルフェルネスが深い眠りに落ちた瞬間、機会を窺っていたユーディットは剣を引き抜き、ホルフェルネスの首をひと思いに切り落としてしまいます。動転したアッシリア軍はベトリアを放棄して逃走してしまい、ベトリアには自由と平安が取り戻されました。
ベトリア市民は熱狂的にユーディットを讃え、絶え間ない賛辞が送られました。未亡人が男に体を許したということは、神の戒律に反するはずですが、この際それを問題にする者はいませんでした。
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ジョルジョーネ『ユーディット』                      ルーカス・クラナッハ『ユーディット』


サロメ
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ギュスターブ・モロー『ヘロデ王の前で踊るサロメ』(部分)
義父であるパレスチナ総督ヘロデ・アンティパスをして、イエスに洗礼を施した聖洗礼者ヨハネの首を切らせた魔性の美少女。
舞で王を魅了
西洋絵画で「美女と生首」の組み合わせがモチーフとされている場合、美女が自ら剣を持っている場合はユーディト、美女が盆に生首を載せている場合にはサロメです。
サロメはヘロデの弟の娘でしたが、ヘロデは弟の死後サロメの母ヘロディアをわがものにします。聖洗礼者ヨハネはこれを批判したたため逮捕され、ヘロデの宮殿の牢獄に繋がれます。ヘロディアはヘロデにヨハネを処刑するようにしきりに求めますが、ヘロデはヨハネを預言者として畏れていたため、処刑をためらいます。
ある晩宮殿では宴会が開かれます。サロメの美貌に夢中になっていたヘロデは、サロメに舞を披露するように求めます。サロメは舞う対価としてどんな頼みごとでも聞くかとヘロデに迫ります。魅惑されたヘロデは操られるように「どんなものでもサロメの欲するものを与える」と誓約してしまいます。

なぜ聖洗礼者の首を?
サロメは美しい舞を見せた上で、ヘロデに「聖洗礼者ヨハネの首」を求めます。ヘロデは「他のものなら何でも与えるから、それだけは求めないでくれ」とサロメに懇願しますが、サロメはあっさりと拒絶します。かくしてヨハネは斬首され、血の滴るヨハネの生首が盆に載せられ、サロメのもとに運ばれました。
サロメはなぜヨハネの首を求めたのでしょうか。ヨハネに激しく非難されていた母ヘロディアが、娘を利用してヨハネを殺させたと解されています。
サロメの神話は後世数限りない芸術作品のモチーフになりました。もっとも有名な作品のひとつがオスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』です。この戯曲では、サロメはヨハネに恋し、キスを拒絶されたために、サディスティックな欲望を満たすため、ヘロデにヨハネの首を求めたと解されています。
自ら男の首を落とした女傑ユーディットと、美貌によって男たちを操って男の首を手に入れた魔性の美少女サロメ。
あなたはどちらが好みですか?
沼正三なら言下に「ユーディット」と答えるでしょう。
谷崎潤一郎は、どちらも好きですね。
ちなみに私はサロメ派です。
Salome_Jean_Benner_c1899_convert_20100716223644.jpg
ジャン・ベネール『サロメ』

タグ : マゾヒズム 谷崎潤一郎 沼正三 家畜人ヤプー ある夢想家の手帖から 寝取られ 三者関係 白人崇拝 サロメ リリス

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