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マゾヒズム文学の世界

谷崎潤一郎・沼正三を中心にマゾヒズム文学の世界を紹介します。

谷崎潤一郎全集全作品ミニレビュー 第一巻

谷崎潤一郎全集の全作品につき、ミニレビューをつけてご紹介しています。
使用している全集は、中央公論社昭和五十六年初版発行のものです。

マゾヒストにとって特に性的な刺激の強い作品については、チャートを儲け、①スクビズム(下への願望)、②トリオリズム(三者関係)、③アルビニズム(白人崇拝)の三大要素につき、3点満点で、どれだけ刺激が強いかを表示します。また、その作品にどのような嗜好のマゾヒズムが登場するのかを、「属性」として表示します。

三大要素についてはこちらをご参照ください。



誕生
初出:明治四十三年九月号「新思潮」
形式:戯曲
時代設定:平安時代、寛弘五年(西暦1008年)
舞台設定:宮中
後一条天皇の生誕を題材に取った怪談。



初出:明治四十三年十月号「新思潮」
形式:戯曲
時代設定:江戸時代、享保十三年(西暦1728年)
舞台設定:江戸、麹町貝塚(現在の千代田区隼町辺り)
スクビズム★☆☆
トリオリズム☆☆☆
アルビニズム☆☆☆
属性美少年、美少女、美尊醜卑、人力車夫

江戸に持ち込まれた象(史実です)を見物に来た町人の会話からなるコメディ。
踊屋台に乗っている美少女に憧れている若者が、争ってその屋台を挽いています。身分の高い若旦那もかなりの数混じっています。
江戸から古い価値観が消え去り、退廃的な風俗が蔓延し、やがて「刺青」に描かれる「美しい者が幅を利かせる時代」がやってくる、そんな予兆を随所に感じさせます。


The Affair of Two Watches
初出:明治四十三年十月号「新思潮」
形式:短編小説
時代設定:現代(明治末期)
舞台設定
東京帝国大学(本郷)
原田の下宿(千駄木)
「私」の家(箱崎町)
登場人物
「私」(山崎禄造)

原田
父、母
何気ない大学生の日常を描いたコメディ。
タイトルの候補は他に「Three Men With Two Watches」または「Historian's History」。
「時計事件もえゝが、(中略)女の事を書いたが好え。」という科白から、谷崎がすでに、自分が何を書くべきか、よくわかっていた事が伺えます。
本筋とは何の関係もなく「あの女の糞なら嘗めるがナ私や。」という衝撃の科白が…。


刺青しせい
初出:明治四十三年十月号「新思潮」
形式:短編小説
時代設定:江戸時代
舞台設定:江戸、深川佐賀町(現在の江東区)
登場人物
清吉
「娘」(「女」)
スクビズム★★☆
トリオリズム☆☆☆
アルビニズム☆☆☆
属性足、美女崇拝、美尊醜卑、悪女、拷問・残虐刑、死体陵辱

冒頭に出てくる「すべて美しい者は強者あり、醜い者は弱者であった。」という一節は有名ですが、私はこれが、谷崎の世界観を端的に表している表現だと思います。私はこれを、「美男美女賛美論」とか、「美尊醜卑」と名づけました。詳しくは谷崎序論①~③で論じています。
本作のマゾ的なクライマックスは、清吉が娘に見せる二つの絵の描写でしょう。一つは、古代中国の皇帝の寵妃が、男達が拷問にかけられたり処刑される様を見物しているもの、もう一つは若い女が桜の木の下で、足下に斃れているたくさんのの男達の死体を見つめているもの。
短い描写なのですが、美しく華やかな勝者と醜く無残な敗者の対比表現が素晴らしく、絵の世界に酔いしれてしまいます。
「女の身辺を舞いつゝ凱歌かちどきをうたう小鳥の群れ、女の瞳に溢れたる抑え難き誇りと歓びの色。」とか。
この全集第一巻の付録に、河野多恵子の解説がついているのですが、河野氏は谷崎文学を「音楽」に例えていました。が、私はやっぱり「絵画」に近いんじゃないかと思いますね、このねっとりと絡みつくような描写は、絵画的だと思います。


麒麟きりん
初出:明治四十三年十二月号「新思潮」
形式:短編小説
時代設定:春秋戦国時代、西暦紀元前493年
舞台設定:中国、衛の国(現在の河南省の一部)
登場人物
孔子
霊公(衛の君主)
南子(王妃)
スクビズム★★☆
トリオリズム★☆☆
アルビニズム☆☆☆
属性王妃、傾国の美女、悪女、匂い、拷問・残虐刑、密通

「刺青」にでてきた一枚目の絵、そのままの世界。谷崎はよほど妲己褒姒伝説が好きなんですね。でも、そりゃそうですよね。国があたかも一人の美女の所有物のように扱われる…マゾヒストなら誰でも憧れるでしょう。
孔子がこの年、衛を訪れていることは史実。霊公、南子他の登場人物も、実在したようです。
孔子といえば、道徳の神様のような存在。それを、美の女神である南子と戦わせるという分り易い展開。一時は、孔子の教えに沿った政治が行われますが、最終的には、わたしはやがての孔丘という聖人をも、妾の捕虜とりこにしてみせませう。」という宣言どおり、南子が勝ちます。当然でしょ。
衛の国は、国中の全ての富が南子に捧げられる、本来の秩序に戻ったのでした。めでたしめでたし。
南子は衛に嫁ぐ前からの恋人と密通しているため、トリオリズムに1点。


信西
初出:明治四十四年一月号「スバル」
形式:戯曲
時代設定:平安時代末期、平治元年十二月
舞台設定:信楽山(現在の滋賀県甲賀市)
平治の乱の最中に切腹した信西の最期を題材にとったもの。


彷徨ほうこう
初出:明治四十四年二月号「新思潮」
形式:中編小説(未完)
時代設定:現代(明治末期)
舞台設定
南湖院(茅ヶ崎)
猪瀬の実家(新庄;山形県新庄市)
湯野浜温泉(現在の山形県鶴岡市)
登場人物
猪瀬弘
父、母
山岡家の人々(父、母、静江、晃一、お新)
太田
お才
東京で体を壊し、茅ヶ崎での療養を終え、北国に帰省した学生の、ひと夏の青春物語。
面白くなってきたところで未完に終わっています。


少年
初出:明治四十四年六月号「スバル」
形式:短編小説
時代設定:現代から二十年前(明治二十年代)
舞台設定:塙の家(現在の中央区日本橋浜町辺りか)
登場人物
「私」(「萩原の栄ちゃん」)
塙信一
光子
仙吉
スクビズム★★★
トリオリズム☆☆☆
アルビニズム★☆☆
属性美少年、美少女、貴族崇拝、姉、緊縛、猿轡、踏みつけ、顔面への攻撃、分泌物・排泄物(唾、痰、洟汁、尿)、足、犬、外傷、生体家具(人間縁台、人間燭台、人間椅子、人間痰壺)、匂い、調教、奴隷、逆転、西洋崇拝

本作について、書きたいことは全て作品論↓に込めましたので、ぜひこちらをお読みください。

谷崎のスクビズム(1)―『少年』論~スクビズムの楽園

はじめて本作を読んだとき、手の汗で単行本がぐしゃぐしゃになったのを憶えています。
とにかくまずは本作を読んでほしい。これを読めば、自然に谷崎のいろいろな作品が読みたくなると思います。
スクビズムの諸類型がほとんどすべて盛り込まれていることもすごいのですが、やはり最後の光子による一瞬の調教。美しすぎます。


幇間ほうかん
初出:明治四十四年九月号「スバル」
形式:短編小説
時代設定:明治四十年
舞台設定:向島、隅田川畔他
登場人物
三平
榊原の旦那
梅吉
スクビズム★★☆
トリオリズム★★☆
アルビニズム☆☆☆
属性催眠術、身分的転落、財産貢ぎ、愚弄、屁、CFNM、集団による辱め、寝取られ、カップルへの奉仕

幇間とは、「宴席やお座敷などの酒席において主や客の機嫌をとり、自ら芸を見せ、さらに芸者・舞妓を助けて場を盛り上げる男性の職業」だそうです。
谷崎は芸者・舞妓が大好きということもあり、これを「マゾヒストの天職」と考えたんでしょう。
もともと相場師だったマゾヒストが、女に貢ぐがゆえに没落していき、ついには天職を見つけるというもの。
トリオリストとしても、非常に刺激的でな部分があります。
「一度彼は自分の女を友達に寝取られたことがありましたが、其れでも別れるのが惜しくつて、いろいろと女の機嫌気褄を取り、色男に反物を買つてやつたり、二人を伴れて芝居に出かけたり、或る時は其の女と其の男を上座へ据ゑて、例の如く自分がお太鼓を叩き、すつかり二人の道具に使はれて喜んで居ます。
たまらん…蕩けそう…。


飆風へいふう
初出:明治四十四年十月号「三田文学」
形式:中編小説
時代設定:現代(明治末期)
舞台設定
吉原(現在の台東区新吉原江戸町)
東北の旅(会津・東山温泉→青森市→浅村→弘前→木造→能代港→秋田市→福島市→平潟港)
登場人物
直彦
「女」
癩病患者の兄妹
スクビズム★☆☆
トリオリズム★☆☆
アルビニズム☆☆☆
属性サキュバス、片務的貞操強制、足

画家の男が新聞社の依頼で東北地方をスケッチしながら旅する物語。
男は旅の間、東京に残した恋人に対する操を必死で守るんですが、その恋人って吉原の遊女ですよね…。
ハンセン病患者差別に対する、谷崎の素朴な憤りが盛り込まれています。
検閲を恐れての自主規制か、色っぽい場面での伏字が目立ちます。


秘密
初出:明治四十四年十一月号「中央公論」
形式:短編小説
時代設定:現代(明治末期)
舞台設定
松葉町のお寺(現在の台東区松が谷辺り)
浅草公園
三友館(浅草に実在した映画館)
「女」の家(中央区日本橋蠣殻町辺りか)
登場人物
「私」(Mr.S.K.)
「女」
スクビズム★☆☆
トリオリズム☆☆☆
アルビニズム☆☆☆
属性女装、目隠し

女装です。


悪魔
初出:明治四十五年二月号「中央公論」
形式:短編小説
時代設定:現代(明治末期)
舞台設定:林の家(現在の文京区関口辺りか)
登場人物
佐伯
叔母
照子
鈴木
スクビズム★★☆
トリオリズム★☆☆
アルビニズム☆☆☆
属性洟汁、自慰、三角関係

親戚の年下の娘が洟をかんだハンカチを置いていったのをいいことに、それをぺろぺろしてしまいます。


あくび
初出:明治四十五年二月「東京日日新聞」
形式:短編小説
時代設定:現代(明治末期)
舞台設定:第一高等学校(本郷)
第一高等学校の学生の青春物語。


朱雀日記
初出:明治四十五年四月―五月「東京日日新聞」「大阪毎日新聞」
形式:随筆
京都に滞在して記した随筆。
後に関西に嵌って移住までした谷崎ですが、この時はまだ江戸っ子の視点から京都を論じています。
しまいには「京都に長く滞在して、何よりも不自由を感じるのは、東京流の女と食物の欠乏である。」だって…。


あつもの
初出:明治四十五年七月―(大正元年)十一月「東京日日新聞」
形式:長編小説
時代設定:現代(明治末期)
舞台設定
橘の家(濱町;現在の中央区日本橋浜町)
美代子の家(小田原)
東京帝国大学(本郷)
川甚(柴又に現存する料理屋)
柳光亭(両国柳橋に現存する高級料亭)
淺川の家(現在の中央区茅場町辺りか)
歌舞伎座(中央区銀座に現存)
千束町(吉原遊郭の一部;現在の台東区千束)
登場人物
橘宗一
美代子
宗一の父(宗兵衛)、母(お品)
美代子の父(清助)、母(お綱)
学友(佐々木、杉浦、山口、野村、中島、清水、大山)
お静
帝大生達のほろ苦い青春物語。
封建的な制度・風習のため自由恋愛を抑圧された結果、若者達は遊興に走り、堕落していきます。
物語は八月から翌年の四月まで。移ろう季節に染まる東京市の鮮やかな景観・風俗がたっぷりと盛り込まれています。


続悪魔
初出:大正二年一月号「中央公論」
形式:短編小説
時代設定:現代(明治末期)
舞台設定:林の家(現在の文京区関口辺りか)
登場人物
佐伯
叔母
照子
鈴木
スクビズム★☆☆
トリオリズム★☆☆
アルビニズム☆☆☆
属性巨女、足、三角関係、親戚の年下の娘に恥ずかしい本を発見され詰られる

本作が発表されてから十年後の大正十二年、関東大震災が発生しますが、本作の冒頭には、その予言としか思えない表現があります。谷崎は明治二十七年の明治東京地震以来激しい地震恐怖症だったそうです。
「悪魔」とその続編である本作の設定は、「父のいない母娘と一つ屋根の下に暮らす二人の学生」というもの。どうしても数年後に発表される夏目漱石の「こゝろ」とオーバーラップします。
「悪魔」と本作にインスパイアされた二次創作↓を書いてみましたので、ぜひ読んでみてください。

「悪魔」「続悪魔」の二次創作


タグ : マゾヒズム 谷崎潤一郎 沼正三 家畜人ヤプー ある夢想家の手帖から 寝取られ 三者関係 白人崇拝 美男美女崇拝 刺青

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