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マゾヒズム文学の世界

谷崎潤一郎・沼正三を中心にマゾヒズム文学の世界を紹介します。

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『ある夢想家の手帖から』全章ミニレビュー 第6巻「黒女皇」

沼正三の長大なエッセイ集『ある夢想家の手帖から』につき、全章をミニレビューをつけて紹介していきます。
入手できた挿画、関連する画像を合わせて掲載します。




第一三七章
ドミナの類型学―その肉体的・精神的条件
マゾヒストは、理想イデア世界に住む女神に憧れ、夢見る存在である、という、第一章冒頭の説を再度説きます。
しかし、「現実世界の女性をまったく離れては、そもそも女神の姿態すがた顔貌かおかたちを思い浮かべることができない。」としています。

これはまったく、谷崎のイデア論そのものです。

以下四章は、現実・フィクション両世界の理想のドミナを類型別に列挙していきます。
そして、それらの女性たちを、その女性に対してどういう関係を持ちたいと空想するかという一種の「内省テスト」によって序列化しています。
すなわち、

第一段階 奴隷
第二段階 家畜
第三段階 便器

の三段階のいずれにまで空想が進むかによって傾倒度を測るもので、第三段階まで空想が進む女性は第一級のドミナとなるわけです。

第一三八章
和洋ドミナ曼荼羅まんだら
ドミナ諸仏が配置された沼の両界曼荼羅から、胎蔵界=現実世界の女性を類型毎に列挙しています。
あきれるほどたくさんの女性の名が出てきます。
この方は相当なミーハーですね。
一部を列記します。

英王室
エリザベス女王
マーガレット・ローズ王妹
アン・オブ・エディンバラ王女(後のプリンセス・ロイヤル)

ヨーロッパ王室
スウェーデン王室の四人姉妹(ビルギッタ、マルガレータ、デジレ、クリスティーナ)
オランダのユリアナ女王
デンマークのマルグレーテ女王
モナコ公妃グラチア(グレース・ケリー)
カロリーヌ・ド・モナコ
イランのソラヤ王妃

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スウェーデン王女ビルギッタ、マルガレータ、デジレ         パトリシア・グラチア。女優・グレースケリーとしての最後の作品「白鳥」より。

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ソラヤー・エスファンディヤーリー・バフティヤーリー。イラン貴族の娘でドイツ人とのハーフ。シャー・パフラヴィーを夢中にさせた「イスファハーンの薔薇」。オイルマネーの上に華麗な王室生活を送り絶世の美女として世界から脚光を浴びるが、不妊症であることが発覚し、帝位継承の安定のため1958年にやむなく離婚。その後は女優として活動した。

西欧社交界
ジャクリーン・オナシス
キャロライン・ケネディ
インディラ・ガンディ
イメルダ・マルコス
デヴィ・スカルノ

ハリウッド女優
オードリー・ヘップバーン
ミレーヌ・ドモンジュ
カトリーヌ・ドヌーヴ
ラクエル・ウェルチ
アーシュラ・アンドレス
ジェーン・フォンダ
ジーナ・ロロブリジーダ
キャンディス・バーゲン
エルザ・マルチネリ

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ミレーヌ・ドモンジュ。フランス女優。特に日本にファンが多い。  オードリー・ヘップバーン。母はオランダ貴族。

学者
中根千枝(社会人類学者、女性初の東大教授)

スポーツ選手
チャスラフスカ(体操、チェコスロバキア)
ジャネット・リン(フィギュアスケート、米国)
クリス・エバート(テニス、米国)
アンネマリー・モザー=プレル(アルペンスキー、オーストリア)
ペギー・フレミング(フィギュアスケート、米国)
沢松和子(テニス)
木原光知子(水泳、引退後モデル、実業家)

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クリス・エバート。四大大会優勝18回。

女性運動家
榎美沙子

テロリスト
ライラ・カリド(パレスチナ解放人民戦線)
重信房子(日本赤軍)

皇族
美智子妃
島津貴子(清宮)
近衛甯子

名家
酒井美意子
村山未知(朝日新聞社主令嬢)
鹿島三枝子(三島由紀夫が贈った恋文が残る)
千登美子(茶道裏千家)

才女
森英恵
山口洋子
戸川昌子
オノ・ヨーコ
渡辺美佐(ナベプロ社長)
中丸薫
兼高かおる(TBS「兼高かおる世界の旅」レポーター)
滝田あゆち(日本航空広報課長)

作家
曽野綾子
犬養道子

音楽家
巖本真理(ヴァイオリニスト、米国人とのハーフ)
中村紘子(ピアノ)
成田絵智子(オペラ歌手)

女優・モデル
入江美樹(白系ロシア人貴族とのハーフ、小澤征爾の妻)
鰐淵晴子(オーストリア人とのハーフ)
安田道代(1967年版「痴人の愛」のナオミ役、「恐怖時代」を翻案した「おんな極悪帖」のお銀の方役)
岩下志麻
梶芽衣子
司葉子

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鰐淵晴子。「天才少女バイオリニスト」から銀幕のスターに。オーストリア人である母の先祖を遡るとハプスブルク家に辿り着く。

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左:入江美樹、右:鰐淵晴子。ハーフモデルの競演。

歌手・タレント
和田アキ子
山本リンダ(米国人とのハーフ)
ロザンナ(イタリア人)
アン・ルイス

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ロザンナ。沼にとって「司令官夫人」を偲ばせる容貌で、顔を見ただけで前に跪きたくなったという。

なお、沼の尋常ならぬ曽野綾子崇拝については、こちら↓をご参照ください。

『手帖』第一三八章「和洋ドミナ曼陀羅」~ドミナを選ばば曽野綾子

第一三九章
大日如来アン王女
エリザベス英女王の長女アン王女について。

戦後、天皇の神格否定により、多くの日本人が喪失感の代替を求めた中、沼はそれを英王室に求めました。
英国の植民地としてアン王女の化粧料(譲渡・処分可能な女子の個人資産)とされることを夢想しています。
また、多くのマゾヒストが美智子妃と皇太子(明仁)との女性上位結合を夢想する中、沼はその根拠を美智子妃に英国皇族の血が入っている可能性に求めています。

第一四〇章
女侠ナンバーワン
男性の精神と力量を持つドミナの理想型として、ピーター・オドンネルの連作スパイ小説に登場する国際犯罪結社の女首領モデスティ・ブレーズを紹介。

附録

A
『毛皮を着たヴェヌス』に邦訳について
本作を「マゾヒストの共通財というべき古典」としたうえで、邦訳本を紹介しています。
最初の邦訳本は大正末期に刊行された青木繁訳の「性の受難者」ですが、これは削除部分や誤訳が多いとしています。
沼が(この時点で)推薦するのは戦後刊行された治州嘉明「毛皮を着たヴィナス」です。
その後、文豪・佐藤春夫による訳本が出され、奇譚クラブの中でも絶賛されますが、沼はこれを「治州訳に劣る」と評しています。
そもそも「名前を貸したものであろう」と佐藤の関与を疑い、いくつかの誤訳を例示した上で、ワンダのグレゴール(奴隷誓約したセヴェリン)に対する言葉使いが日本語の目下に対する言葉になっておらず、原作の意図を誤っていることを決定的な欠点としています。
これに対し佐藤訳を支持する麻生保が反論し、例によってかなり感情的な議論が展開されています。

おそらく、原作の意図としては、ワンダがグレゴールに対してdu(お前)という二人称を使っていることを根拠としている沼が正しいのでしょう。
現在出回っている種村季弘訳も、治州訳に近い言葉遣いになっています。
ただ、どちらが趣があり、読者の昂奮を惹起するかというのは、また別問題な気がします。

(治州訳)「お前は直ぐに、名前や住所や、その他伯爵の事をいろいろ調べておいで。解ったかい」
(佐藤訳)「あなたは、すぐにあの王子の名前と、住まいと、境遇を調べてきて頂戴、分かって?」
((種村訳)「すぐにあの公爵の名前とお住居と身辺のご様子を調べておいで、いいね?」)

みなさんはどちらのワンダにより魅力を感じますか?
私は佐藤訳のワンダのほうに高貴性を感じ、猛烈に昂奮します。
いずれにしても佐藤訳は読んでみなければならないし、セヴェリンの四行詩を

愛らしき魔性を帯びた神話の乙女
なが奴隷を踏み敷き給え
其の大理石の如きうつしみは
天人花ミルテ竜舌蘭アガペの下に休らめて

とした治州訳も読んでみたいですね。

なお、森鴎外について、東大図書館に残る鴎外旧蔵の文庫中に自筆と思われる漢文による読後感の書込みのあるマゾッホの作品があり、関心はあったようである、としています。

B
神の酒ネクタールを手に入れる方法
芳野眉美の飲尿に対する並々ならぬ憧憬の吐露に対して、沼が実体験に基づき入手方法を教唆したもの。
実体験とは大学時代、下宿先のS子という夫人に惚れ、試行錯誤の末、ブリキ製の容器とセルロイド製の下敷きを使った仕掛けで常習的にS子の尿を入手したというものです。
美しく支配的で「甚だしく魅力を感ずる」夫人に「全く下男扱いされた」うえに、さらに「隷属の意識を高めるべく」夫人の汚れ物をあさったうえに仕掛けの発明によって「毎日自由自在にS子のネクタールを満喫」し、「日によってはS子の排出した全水分を飲んだ」という理想的な青春(おそらく終戦直後)は、谷崎の「神童」を思わせます。
司令官夫人との日々と並んで沼のマゾヒズムに大きく寄与した日々かもしれませんね。

C
狂言 内沙汰
中世農村を舞台にした夫婦ものの狂言を紹介。
若く美しく怜悧な妻が臆病で愚鈍な夫を徹底的に打ち負かし、玩弄します。
妻は夫の仇である富農と密通しているのですが、作品はあくまで夫(コキュ)を嘲笑する喜劇として作られています。

D
人か馬か
ジュール・シュペルヴィエルの短編を訳出。
ある貴族の男が死なせてしまった馬の呪いで馬に変わってしまいます。
男は完全に馬に変わる前に婚約者のアメリカ婦人に顛末を告げ、婦人の乗用馬車用の馬になりますが、やがて婦人の馬車には若い男が同伴するようになります。

E
マゾヒスト協会
フランスの風俗小説の訳出。
貴族の家庭内で母と娘(ヒロイン)が父と娘婿を奴隷化していて、家事奉仕、鞭撻、足舐めなどが展開されます。
ヒロインは同様の関係にある男女を募って「マゾヒスト協会」を結社します。

なお、この訳出が沼の奇譚クラブへの初投稿。

F
公妃の復讐
ザッヘル・マゾッホの短編の抄訳。
舞台は中世キエフ大公国。
近隣部族の首長に夫の大公を殺された公妃が、その美貌に魅せられて結婚を申し込んできた首長を陥れ、部族ごと全滅させたうえに、首長の手足を切り落として畜生として自分の食卓の下で生涯をすごすという酷刑に処します。

G
黒女皇
舞台は中世、キエフ公国編入前のガリツィア(ウクライナ南西部)。
皇帝ウラジミールの寵を受けた女奴隷ナルダが、皇帝を性的に隷属させたうえで一日だけ自分に帝位を譲る事を約束させます。女皇となったナルダは一日のうちに策略をめぐらせ廷臣や貴族を皆殺しにし、一日の最後に皇帝を処刑してガリツィアを恒久的に支配します。
刑を宣告されたウラジミールにナルダが「慈悲として」、足へのキスを許し、ウラジミールが夢中でこれに応えるシーンがクライマックスです。
ナルダは貴族を誅殺して農民の支持を得たため、農民階級を象徴する「黒」を冠して「黒女皇」とよばれます。

解説で沼は「公妃の復讐」を応用して、ナルダがウラジミールを処刑せず、手足を切断して犬として寝室に飼い、ついには愛人となった美青年将軍との共有の便器にまで堕とされる展開を妄想しています。

H
雑報
夥しい数の資料が数行ずつの解説で紹介されています。

ひとつだけ特筆すると、富田英三の「ボクは犬じゃない」という風刺漫画。
日本や朝鮮といった植民地的国家を「リベラル家」の飼犬として描きます。
リベラル家の夫人は米国、亭主は欧州。
日本犬は夫人の入浴に侍ったりして重宝されますが、夜は夫婦のベッドの下に「オイテケボリ」にされる切なさを吐露しています。
スクビズム、トリオリズム、アルビニズムの見事なミックスですね。

占領期の「植民地的な」ニュースに対する反応もあり、白人観光客が投げた小銭を日本人の子供が這って拾い一興を提供した屈辱を喜んだり、日比谷公園で薄着でテニスに興じる白人少女たちに魅せられて練習の終わるまで金網にへばりついていたりしています。
楽しそうですね。
1957年(主権回復後)のジラード事件では、空薬莢を這い回って拾う日本人主婦の卑しさを「コソ泥と罵られたって仕様がないではないか」と非難し、白人二等兵の裁判権を日本が得るという理不尽に、白人崇拝者として「無条件降伏した時に、白人に対する裁判権を日本から永久に奪ってしまえばよかったのに」と切歯扼腕しています。

I
沼正三便り
奇譚クラブの執筆者に当てた公開の便り。

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