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マゾヒズム文学の世界

谷崎潤一郎・沼正三を中心にマゾヒズム文学の世界を紹介します。

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『ある夢想家の手帖から』全章ミニレビュー 第2巻「家畜への変身」

沼正三の長大なエッセイ集『ある夢想家の手帖から』につき、全章をミニレビューをつけて紹介していきます。
入手できた挿画、関連する画像を合わせて掲載します。


第三二章
女主人の鞭(『月夜鴉』)
以降三章は「むち」について。
川口松太郎『月夜からす』を紹介。三味線の女師匠が弟子の男を鞭撻して奴隷化します。

第三三章
むちのいろいろ
様々な種類のむちを解説します。
「鞭」は皮革などの動物性、「笞」は木の枝などの植物性のものをいう…などなど。

第三四章
笞刑と鞭刑
アントン・チェーホフの『サガレン島』(『サハリン島』)からの引用で、笞刑と比較して鞭刑がいかに苛烈な刑罰であるかを解説します。
orpheus.jpg
アルブレヒト・デューラー『オルフェウスの最期』。これは「杖刑」。

第三五章
微視的マゾヒズム
マゾヒストが次第に強い刺激を求めていくにつれて、弱い刺激には鈍感になるかというと、必ずしもそうではなく、「レファインされた」(洗練された)マゾヒストは、弱い刺激にも敏感になり、夢想の種を見出すようになる、とします。
この現象を微視的マイクロマゾヒズムと名づけています。

第三六章
手を踏まれて
微視的マイクロマゾヒズムの一例として、沼自身がある日満員電車で、美女の靴に手を踏まれた体験を紹介。
当時の満員電車では乗客は座席の上にも立ったそうで、沼は立つのが遅れたために手を踏まれてしまったんですね。
田園調布駅から渋谷駅までその状況を楽しんだ様子が克明に描かれています。
沼はこう考えるんですね。
「美女は友人と話をしている。卑賤な自分の手の痛みごときのために、その会話を一瞬でも邪魔しては申し訳ない。」
さらにはこう妄想を膨らませます。
「彼女は自分の手を踏んでいることを知っているが、彼女にとっては自分の体などは床や座席と同じ値打ちしかないのだから、足をどける必要を感じないからそのまま踏んでいるんだ。」
この美女は永く沼の「心のドミナ」となったそうです。

本章は、「精神的陵辱が正当マゾヒズムの真髄であるならば、なぜマゾヒストは肉体的苦痛を求めるのか」という問題を考える上でも非常に重要ですね。
沼にとっては「肉体的な苦痛を与えられる」というのは、「上位者から、自己の精神・肉体・尊厳・生命を軽視・無視される」という精神的陵辱の一種なんですね。
ただ、「肉体的な苦痛を与えられる」というのが他の精神的陵辱と比べて特別なのは、与えられた肉体的な刺激が精神的な快楽に強く作用し、陵辱に実感を伴う、という付加価値(おまけ)がついているということなんですね。

第三七章
鼠入りハイヒール
ハイヒールのかかとの部分に透明ケースを設けてハツカネズミを入れるというファッションがある、というニュースから、そのハツカネズミになった妄想を披露します。
さらに、人間のために生(生命、生活、一生)を利用される家畜という存在にたいする並々ならぬ思いを吐露しています。

第三八章
漫画の効用
日本には、マゾヒズムをモチーフにした美術作品が少ないが、その代わりに、漫画にはマゾ的に昂奮できる作品がたくさんあるとして、作品を紹介しています。
さすがにこれは、現代オタク文化を知る者としては驚くようなものはあるまいと思いきや、なかなかどうしてすごい内容の作品が並んでいます。

第三九章
マゾヒストの詩
以降六章は汚物愛好について。
ドイツのマゾヒストがドミナに贈った詩を紹介。

第四〇章
人間ポット
飲尿について。
ドミナから直接こぼさずに飲尿するのは、物理的にそんなにたやすいものではない、としています。

第四一章
人間トイレ
食糞について。
飲尿と比較して食糞は心理的抵抗は極めて大きい。
一方、物理的には飲尿ほど困難ではない、としています。
さらに、白人にこそ人間便器使用者としての資格があることを延々と解説します。
沼正三の場合、心理的禁圧が強い陵辱であっても、白人崇拝を持ち出すとあっさりと禁圧を乗り越え、むしろ病的なまでに強烈な願望になります。人間ビデ願望や、男性器への奉仕についても同様です。上位者が同胞である場合と、白人である場合のダブルスタンダードができてしまっています。
「同胞からは受け入れられないけれど、白人に対してはは強烈に欲してしまう陵辱」。これが沼正三のマゾヒズムの特異性です。

第四二章
女神を求めて
マゾヒストの手紙シリーズ第三弾。
嗜虐女性サディスティンに後天的に馴致されたマゾヒストであることを指摘。
捕虜時代の同様の体験に触れています。
付記でラルフ・ウォーレス『服従学校』を紹介。
妻や母の依頼で男性を奴隷に馴致する施設。財産目的で結婚した妻の依頼で収容された男が、妻が愛人と旅行を楽しんでいる間に徹底調教を受けます。

第四三章
対象神格化の心理
汚物愛好が対象神格化に結びつきやすいことを解説。
沢井和雄『奈落の欲情』を紹介。
劇団の花形女優:ゆかりの奴隷となった道具係:サムの物語。徒弟→主従→奴隷→飼犬→道具にまで堕ちたサムは
ついには人間トイレとなる。サムの支配者は、ゆかり自身からゆかりの尻へ、さらにゆかりの排泄物へと代わっていく。それにつれて、ゆかり自身はサムにとって遠い神の世界の住人となってしまいます。
さらに、マゾヒストのファンが映画女優に贈ったファンレターを紹介。
足の裏にキスすることは、人間が神に、畜生が人間にする行為であって、畜生が神に対する場合は、神の排泄物を仲介物として、それを尊ぶしかない、とあります。
また、幼児が母を慕うように女性を崇拝する侍童願望パジズムが、汚物愛好と対象神格化に結びつきやすいことを解説します。

第四四章
ピカチズムと舌の役割
汚物愛好の中で、受動的に汚物を受ける人間トイレに対し、能動的に汚物を舐める願望をピカチズムとします。
代表的なピカチズムとしてトイレ紙代用奉仕、クンニリングスを挙げます。
付記では米国留学中に、郷里に婚約者のいる年下の白人女子学生に舌奉仕をした日本人学生の「自慢話」を紹介。

第四五章
犬になりたや
犬への変身願望について。
付記では英国で狐狩りを見物した体験を披露し、騎馬の男女に魅せられて乗られる馬にも、狩られる狐にもなりたいと思ったが、それ以上にフォックス・ハウンドになりたかった、としています。
以下十章延々と「犬」について。
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狐狩りの様子。あなたは馬派?犬派?それとも狐派?

第四六章
夫を飼う決心
オーストリアでの症例を紹介。
戦争で眠っていた願望が発露した軍人が、妻に対して手紙で、帰還時には犬として扱うよう懇願します。

第四七章
犬のくせに……(『犬頭の男』)
ジャン・デュトゥール『犬頭の男』を紹介。
生まれつき犬の頭を持った男の物語。人に嫌われ、社会的にも差別されている彼が、自分を玩弄する同僚の美女に恋してしまいますが、徹底的に本物の犬として扱われます。

第四八章
女司令官の靴を舐めて…
マゾッホ『前哨に立つ女』から一場面を紹介。
ロシアとトルコの戦争中、トルコのパシャが、ロシア軍の女司令官:ソルチコフ伯爵夫人の捕虜になります。パシャは宴会の余興として貴婦人たちの前で犬吠えの真似をさせられます。
ここから先は沼の二次創作。
伯爵夫人はパシャに客人の靴を舐めるよう命じますが、パシャがためらったため、鞭を使います。これでパシャは完全に屈服し、伯爵夫人の長靴ブーツを舌で掃除する…などなど。
付記では、奴隷制廃止期の米国南部における白人たちのパーティーの一場面を紹介。
客人の青年が生クリーム菓子を落として令嬢の靴先を汚したので、青年がハンカチで拭おうとしますが、令嬢がそれを制して黒人少年を差し招いて靴先を指差し、クリームを舐め取らせつつ、青年とは会話を再開します。

第四九章
私は犬です
マゾヒストの手紙シリーズ第四弾。
一九世紀末の犬願望者。

第五〇章
犬と猫
なぜマゾヒストが家畜の中でも特に犬になりたがるのかを猫との比較で解説。
猫が存在するだけで人に愛され、自由を謳歌しているのに高貴な動物であるのに対し、犬は人に従順で忠実で、さまざまな人間の用途に供されている、卑しい家畜であるため、とします。

第五一章
犬好きの女と猫好きの男
前章にいう犬と猫の性質から、マゾヒストには猫好きが多く、マゾヒストにとって理想的な女性は、犬好きが多い、とします。

第五二章
夫を飼う(『犬の変奏曲』)
木場草介『犬の変奏曲ヴァリエーション』という小説を紹介。
猫好きの妻が犬のような夫を嫌い、夫が発狂する話。
付記では白野勝利の『現代の魔女』を紹介。
詳細はこちら。
HNの由来と作家:白野勝利氏

第五三章
ハイネの妻
十八歳年下の妻に犬として拝跪したドイツの詩人ハイネのマゾヒスムについて。
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ハイネと妻マチルド

第五四章
マゾッホと犬と猫
マゾッホも、猫を愛し、犬に対しては同類感を抱いていたことを解説します。

第五五章
マゾッホをめぐる女性たち
マゾッホの性的遍歴を紹介。
・アンナ・フォン・コトヴィッツ夫人:最初のドミナ。犬のように奉仕させたあげく、マゾッホを捨てます。
・ファニー・ピストル夫人:マゾッホは彼女の奴隷としてフィレンツェに随行しました。奴隷契約も結んでいます。
・オーロラ・リューメイン:『毛皮を着たヴェヌス』のヒロイン・ワンダを名乗ったマゾッホの夢想の女性。十年間マゾッホは彼女に奴隷として仕えます。
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マゾッホとファニー・ピストル夫人

第五六章
人血搾取
唐のある町で染物に使う人血を搾取するために人が飼われる、という説話を紹介。

第五七章
女体沐浴
野村胡堂『揮発した踊り子』という小説を紹介。
体から分泌するものは、汗でも尿でもよい匂いがする女性を愛した男が、彼女の入った浴槽に酒を注いで汗と混和させて愛飲するという話。

第五八章
浴槽から乾杯!(『仇討三鞭風呂』)
獅子文六『仇討あだうち三鞭シャンパン風呂』という小説を紹介。
フランス人少女が、浴槽に満たしたシャンパンを男たちに飲ませるが、実は彼女は浴槽の中で放尿していた、という話。

第五九章
ポッペアのミルク風呂で
ローマ皇帝ネロの妃:ポッペア・サビナがミルク風呂に入っていたという史実から着想した妄想。
沼はポッペアの陰毛の手入れをする奴隷なのだが、哀れ、ポッペアの残酷な好奇心の犠牲になり、些細な咎から舌を切断されます。
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映画『暴君ネロ』よりクローデット・コルベール扮するポッペア

第六〇章
矮民王義
隋の煬帝に仕えた侏儒ドウオーフ(小人)の宦官:王義に着目。
史実では煬帝の荒淫を諌めた王義ですが、沼の妄想内では、後宮で煬帝と寵妃に性的奉仕をさせられています…。
付記では『家畜人ヤプー』の「女陰畜」につながる顔面女陰妄想に言及。
ドイツで上流貴族の青年に対して口淫奉仕を妄想したところ、「既に人間便器妄想で汚されている私の口部」では、青年に申し訳ないと考えたことから着想したそうです。
白人貴族に対する沼の尋常でない心的傾斜が垣間見えるくだりです。
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ルネ・マルグリット『レイプ』

第六一章
侏儒と道化
王侯や寵妃の玩弄物とされた侏儒と道化について。
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ジャン=マルク・ナティエ『マドモアゼル・ド・クレルモンのトワレ』

第六二章
醜い黒犬から
マゾヒストの手紙シリーズ第五弾。
アルジェリア人の資産家が、フランス人の秘書官夫人の飼い犬になることを希望する内容。
被支配民族の支配民族に対するマゾヒズム(=有色人種の白人崇拝)が衝撃的な形で現れています。

私の暗色の皮膚は、私たちアルジェリー人が貧富を問わず、その皮膚ゆえに白き皮膚の人々に隷属すべきことを教えていないでしょうか。
(中略)
私はアルジェリー人の本来の使命は支配者なる白き皮膚の人々に仕えることにあるのだと悟り、(後略)


書かれたのは二十世紀初頭。フランス人入植者のサディズムともいうべき苛烈で残忍な支配に対して、密かに敵愾心を抱くことすらできずに、心の底からフランス人に隷属してしまうマゾヒストが出現したことに、戦慄してしまいます。
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フランス植民地時代のアルジェリア

第六三章
人間は動物である
前章の続き。
フランス人の秘書官夫人に手紙を送ったアルジェリア人は、自らを「飼養」することを条件に、全財産を夫人に贈与してしまいます。
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オーブリー・ビアズリー『モーパン嬢』(テオフィル・ゴーティエ)の挿絵

第六四章
愛情の一方通行
バルザックの『モデスト・ミニヨン』を紹介。
地方貴族の令嬢モデストと三人の求愛者の物語ですが、もう一人、モデストに恋する脇役・ビュッチャに着目。
せむしで侏儒で私生児のビュッチャの恋は、「三人の求愛者」のそれと違い、「虫けらが星を慕うような片恋」なのです。
付記で「愛情の一方通行」について解説。
田沼醜男という作家が名づけた概念だそうで、自らに愛を捧げた男に対する、女の無関心、冷笑、裏切、忘却等を意味します。
これは谷崎潤一郎が大大大好きなパターンですね。
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『モデスト・ミニヨン』の挿絵

第六五章
愛国心か情欲か(『デュポン博士とその妻』)
長谷川如是閑にょぜかんの『デュポン博士とその妻』という小説を紹介。
顔も体も「滅茶苦茶にこわされた」畸形のフランス人デュポン博士。かれの畸形は、アルジェリアの先住民・ベルベル人である夫人により、フランスへの復讐として加えられた…という話。

第六六章
日の丸ズロース
終戦直後、台湾では日本による支配への復讐として日の丸をズロース(女性のパンツ)とすることが流行したという伝聞。
付記では「地位逆転」のマゾ的効果に言及。
さらには「天皇制の冒涜」に言及し、白野勝利『ジャクリーヌの厩』を紹介。
詳細はこちら。
HNの由来と作家:白野勝利氏

第六七章
人間テーブル
従軍時代に兵営で古参兵の人間テーブルとなった経験を披露。
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オーブリー・ビアズリー『蔵書票エクスリブリス

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タグ : マゾヒズム 谷崎潤一郎 沼正三 家畜人ヤプー ある夢想家の手帖から 寝取られ 三者関係 白人崇拝 美男美女崇拝

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