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マゾヒズム文学の世界

谷崎潤一郎・沼正三を中心にマゾヒズム文学の世界を紹介します。

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敗者のトラウマ~戦後日本のジャクリーン崇拝

人にはそれぞれ理想の女性がいます。
マゾヒストにはそれぞれに理想のドミナがいます。
現実に出会った女性の場合もあり、女優や王族の女性などに、媒体を通じて遠く憧れる場合もあり、神話や小説などに登場する架空の存在に理想を求める場合もあるでしょう。
近代以降の日本のマゾヒズトに最も崇拝され、理想のドミナとされた実在の女性は誰でしょうか。
アメリカ合衆国第35代大統領ジョン・F・ケネディの夫人、ジャクリーン・ケネディ・オナシスはその有力な候補の一人でしょう。

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沼正三は「ある夢想家の手帖から」第七七章付記第二においてジャクリーンを次のように賛美しています。

本文で詳述したドミナの諸条件を念頭におきつつ、世界的規模で考えると、(中略)第一に数えられるのは、―英王室の女性は別論として―ジャッキーことジャクリーン・オナシス夫人であろう。彼女は(中略)名門の生れで、幼少から乗馬をたしなむような環境で人となったが、長じて知的な婦人記者となった。その美貌と才気によってケネディを射止め、全世界に号令する米大統領の夫人として文字通りアメリカのファースト・レディとなったが、ダラスの悲劇後、未亡人として終わらず、今度は世界一の富豪オナシスの夫人となって、婚約指輪が四億円とか、結婚後の一年間に七十二億円使ったとか喧伝された。むしろ享楽的なのを崇拝するのだから、この恋の冒険者の再婚はマゾヒストの憧憬をかえって昂めたのである。大統領夫人時代、不倫のラブレターを情人に送っていたという噂も、世間一般にはどうあれ、マゾヒストには少しもマイナスでない(ケネディのほうも、マリリン・モンローとよろしくつきあっていたというではないか)。(中略)しかも彼女は(中略)ジュウドウのレッスンに通っていたというし、現にカラテを使って無礼なカメラマンを路上に顚倒させた武芸の実力の持ち主でもある。美貌・才気・高貴・驕慢・乗馬・武勇……いろいろな条件をこれくらい十二分に揃えた人は他にあるまい。今の世で最もドミナ的特性に富む女性として、狂崇的なジャクリーン崇拝者が出てくるのも無理はない。


本章では貴婦人崇拝者の理想のドミナの要件を「高貴」「財産」「驕慢」の三つとしています。
第一章「夢想のドミナ」に示された類型で言えば、ヘラ型のドミナですね。
それに加えて、「才気」「乗馬」「武勇」の点はアテネ的な要素も兼ね備えている、ということなのでしょう。
これらはザッヘル・マゾッホが好んだドミナ像とも重なります。
ジャクリーンは理想のドミナとして、世界中のマゾヒストの憧れを集めたことでしょう。

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しかし、日本人マゾヒストのジャクリーンに対する崇拝の仕方は、なかなか尋常ではないもので、まさに狂崇的と言っていいでしょう。
「手帖」にはジャクリーンへのオマージュとされる作品が紹介されています。

北園二三「カロライン島の家畜人」(「問題SM小説」)
 日本人男女がブロンド女性の家畜調教人に、男は馬に、女は犬とにと調教され、地中海の島に連行されてそこで女支配人カロラインの家畜として使役される、というもの。
 ドミナのモデルは、名前こそ長女のキャロラインに仮託しているものの、明らかにジャクリーン。
 当時彼女はオナシスから贈られた地中海のスコルピオン島を所有していました。

天野哲夫「女帝ジャクリーンの降臨」
 単行本化されており、現在でも容易に入手・閲覧できます。
 占領下の日本で犬願望の強い低身長のマゾヒストの主人公が、白人女性ドロテア・ビンツの愛犬となっていく過程と、連合国軍総司令官ダグラス・マッカーサー暗殺を機に対日占領政策が転換され、この時点では上院議員の恋人であったジャクリーンが二十二歳で大日本帝国憲法に定める天皇と同等の地位である合衆国特別州総督の地位に着くまでの過程が、同時並行で描かれます。
 本作は間違いなく天野の最高傑作であり、本作を読めば、天野がいかに優れたマゾヒズム文学の作家であるかがわかります。天野の犬願望と、白人崇拝が、飢餓の蔓延する占領期の日本のリアルな空気感とともにスリリングに展開していきます。登場する日本人たちの呻くような卑屈さと、虫を観察するかのような目で日本人を検分し、その処遇を決めていく白人たちの尊大さの対比は、この時代を体験した者にしか描けないものでしょう。
 「家畜人ヤプー」にも影響するとにかく難解な神話・歴史・文学・人物のパロディも、この作家の空前絶後の個性として考えれば楽しむことができます。

白野勝利「ジャクリーヌの厩」(「SSS」)
この際、手帖から紹介部分全文を転載します。

 広島原爆の結果生じた異次元世界に仮託してあるが、その世界での日本は、コラコーラという米国製飲料の麻薬的効果のために経済的に破綻してしまう。国宝的建築や領土の一部を担保に借款するが、結局破産し、国際連合債権者委員会に管理される。日本を世界の別荘地として宣伝し、投資させる政策が決定される。割譲はしないが永久租借権が設定でき、個人租界が作れるので、世界中の王侯富豪が争って別荘地を求める。税の関係で名義はたいてい女性である。ハリウッド女優も負けていない。日本中の名所旧蹟、名勝、島嶼、目ぼしいものは皆、欧米婦人の租借地となる。租借地からは原住日本人は立ちのかなければならないが、立ちのかずに新地主に隷属し、上納金を入れてもいい。たいていはそれを選ぶ。富士山は英女王のものになり、裾野は英王室の狐狩り用の御狩場になる。日本三景はソ連人民の極東観光地になる。瀬戸内海の島々はたいてい米国女性の名義に変わってしまう(なお、作者は外国女優の名をいくつもあげて、これに快感を覚えたらしいことを推測させるが、省略する)。
 とうとう宮城が競売されることになる。それを手に入れようと、アメリカのケネディ大統領夫人ジャクリーヌとモナコ王妃グレース・ケリーとが競り合う。ジャクリーヌ夫人は既に琵琶湖を、グレース王妃は既に日光全山を租借しているのだが、さらに張り合う。結局ジャクリーヌは、琵琶湖の半分を王妃に譲って、かつては自ら主権者とその配偶者としてケネディ夫妻をここに迎え、対等に握手で迎えたこともあるやんごとないカップルも、国民に見捨てられて退位するが、亡命しようにも財産をすべて共和新政府に国有財産として押さえられ、今は結局、世の習わしどおり、住居の新所有者の使用人として生活するしかない。乗馬の好きなジャクリーヌは、宮城内の厩舎と馬場を拡張させる。しかし、彼女の温情は、このカップルのために思い出のテニスコートを厩舎の裏の一隅に残すことを許すのだった……
 原文は、乗馬するジャクリーヌに奉仕する二人の姿を描き、その国辱感の裏返しとして生じるマゾ価はきわめて高いが、ここでの詳しい紹介は遠慮しよう。


 私は手帖の上記引用部分を読んで、猛烈な昂奮を覚え、青春時代はよく日本地図と女優名鑑を広げて、列島が白人女性に分割されていく様を妄想して延々と自慰を繰り返しました。
 昭和天皇と香淳皇后が毎日ジャクリーンの愛馬の世話をしたり、ジャクリーンが騎乗した馬を曳いたりしている姿も想像しました。
 そこでは二人は馬一頭分の厩よりもずっと小さな住居で寝泊りしています。ケネディ夫妻で乗馬を楽しむときは、馬丁にも乗馬鞭を使う夫人の馬は元天皇が曳き、優しい大統領の馬は元皇后が曳く。夫人があまりにも馬丁を乱暴に扱うんで、大統領が気遣う。馬丁は涙を流して大統領に感謝するんだけれども、癪に障った夫人は「だめよ、あなたの馬丁だけならともかく、私のまで甘やかさないで」なんていって、かえってひどく鞭を使ったり…と、妄想ははかどりました。
 
 注目すべきは、白野をして、スウェーデン出身で美貌に勝るモナコ王妃グレース・ケリーとの争いにジャクリーンを勝たせていることですね。皇居を所有し、天皇皇后を傅かせるには、ジャクリーンの方がふさわしいとした。
 ここを見るに、この時期の日本人マゾヒストのジャクリーン崇拝は、ヘラ型・アテネ型のドミナ属性と白人崇拝だけでは説明しきれないものがあると思われてなりません。
 やはり、天皇制ファシズムを経て、敗戦、占領体験によって生み出された米国に対するトラウマの深刻さを感じます。国土を焼き払い、同胞を焼き殺した白い肌の占領者に無条件降伏し、飢餓の中で卑屈に媚びて生き延びた記憶が、性衝動と強く結びつき、トラウマの対象である米国のイメージが、ジャクリーンに象徴されたのかもしれません。

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終戦を知り皇居前でひざまずく日本国民、横浜空襲の惨状

 沼は付記の最後に刺激的な妄想を記しています。ジャクリーンは、日本の作家たちが馬になっって自分に乗られたり、便器になって自分の排泄したものを口にすることを渇望し、果ては万世一系の君主を廃して自分を国家の主権者に迎える様を、競って小説にしていることを知ったらどう思うか。「あたりまえよね」と愛娘のキャロラインと顔を見合わせて笑うのではないかと…。

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